2019.11.01

言語学の話(2回目)

みなさん、こんにちは、嶋村です。今日こそ言語学の続きの話をしたいと思います。さて3週間前のブログの最後に「さて、「X が Y を/に~する」のスキーマで X を(「ゴマをする」の「ゴマ」のように)固定した名詞表現で Y を好きなように変えることができるイディオムを見つけることができますか?ちょっと考えてみてください」と書きました。要は他動詞の主語を固定した名詞表現にして、目的語名詞を固定しないで得られるイディオム表現はありますかって質問です。目的語と動詞から構成されているイディオムはたくさんあります。「墓穴を掘る」は自分の手で自らを破滅させるような行為を行うことを表すし、「目を疑う」は目の前で起こっていることが信じられない時に使いますね。身体の部位を表す名詞は色々な動詞と結びつきイディオムを作ります、「手を焼く」、「頭を捻る」、「足をすくう」、などなど。しかしどれだけ頭を捻っても(笑)、他動詞主語と動詞の関係で特別な(イディオム的)意味が出る表現ってないような気がします。もちろん自動詞ならば「足が出る(予算オーバーって意味ですね)」のような表現はあります。しかし他動詞主語は僕の知る限り動詞のイディオムの解釈に参与しません。これは英語などの他の言語でも当てはまります。ちょっと不思議ですね。なぜでしょう。


前回動詞の意味は、例えば kick ならば形式意味論的に二つ項をとるので λx.λy.kick(x)(y) と書くといいました。x が主語で y が目的語であるとします。そうすると John kicked a ball は kick(a ball)(John) となりますが(この辺の詳細は3週間前のブログで)、ようは x に相当するものしかイディオム解釈に関係することができません。ちなみに kick the bucket は「死ぬ」という意味があります。


まあ他にも色々理由があるんですがそれの話をするとあまりにも専門的になりすぎるので、とりあえず結論だけ言うと、λx.λy kick(x)(y) という意味表示はあまりよろしくないのではないかということになったんですね。それで、主語に相当する動作主(Agent)を動詞から切り離そうということになりました。それですごい一般向けの書き方をすると、λx.λy.Agent(y) & kick(x) という感じになりました。本当は動詞の事象(イベント)に相当する項もあるのですが割愛します。それで、kick という動詞部分と Agent(~する人的な。。。)部分はそれぞれ別な要素があるという話なりました。これがいいのは例えば、先ほどのイディオムの事実を説明できるのです。つまり動詞によって直接選択される名詞(つまり目的語)のみ動詞のイディオム解釈に貢献できるというものです。


本当はもっと話は複雑なんですが、動詞と Agent を分けるのがいい理由はまた来週以降ということで。。。ではでは。