"club"という言葉を聞いて、皆さん、どのようなことを思い浮かべるでしょうか?
多くの人たちが、まず思い浮かべるのは、中学校・高等学校・大学などで行った、または行っている部活動のことを思い浮かべることでしょう。他にも、フィットネスクラブやテニスクラブ、またゴルフや最近では、「総合型地域スポーツクラブ」といった地域に育成され始めた会員制のスポーツクラブを思い浮かべることかもしれません。中には、繁華街にオジさんたちがひしめく、ナイトクラブを思い起こす人もいることでしょう。
一般的にクラブとは、親睦や趣味、また様々な文化活動など、共通する目的を持った人々の集まり、集団、組織のことを意味します(広義には、会員制の娯楽場や社交場、また遊技場のような場所そのもののことを表す場合もありますが...)。重要なのは、「会員制」という人間関係のシステムを維持し、個人を差異化するしくみが存在するということです。つまり、そのメンバーになれる人となれない人、集団の内側と外側とを区別するしくみがあるということです。
では、我々は、一体、いくつの会員制組織に所属しているのでしょうか?
試しに財布を開けてみて、会員証の枚数を数えてみてください。学生証などのIDカードだけでなく、キャッシュカードやクレジットカード、レンタルビデオやガソリンスタンド、ケーキ屋やスーパー、家電販売店や洋服店に至るまで、何枚ものカードを常に携帯していることと思います。
確かに情報化社会といわれる現在では、個人が保有している情報量の多少や加わっているネットワーク、また組織の数がその人の存在価値すら決めかねないような傾向にあります。我々が所属している学会もそうですが、所属学会が専門分野における情報へアクセスするためのツールとなったり、個人の専門性を判断する1つの基準となったりしています。
しかしながら、その所属する集団や組織とのかかわりについて目を向けるとどうでしょう...。自ら積極的にその輪の中に入り込み、その集団や組織を維持・発展させるために、所属するメンバーが互いに知恵を絞り合っているというものが1つでもあるでしょうか?利用はするけれど...というものが多いのではないでしょうか?
英語の"club"という単語には、先に述べたように共通目的を持った人たちの集まりという意味だけでなく、「(集団や組織が掲げる目的を達成するために...)みんなで金や知恵を出し合う、協力し合う」という動詞の意味があります(正確には、"club together~"ですが...)。この意味を、どれだけの人が理解しているでしょうか?
つまり、我々は、自らが所属する、帰属する集団や組織に対して、何かを求めることには関心を払うものの、そこに所属する一員として、集団や組織の発展のために、どのような役割や責任、また義務を負うかということには、あまり目を向けたがりません。
受験戦争に勝ち抜き、大学生という、いわば自由な身分を勝ち得た皆さんは、時間的にも物理的にも、また精神的にも、様々な拘束から逃れたい...、そう考える人が多いことでしょう。築き上げられた伝統や秩序を維持することや、規律や礼儀を重んじるということは、自由を謳歌したいと考える大学生の価値観とはかけ離れているかもしれません。どちらかといえば、過度に拘束されずに、誰かとつながっておきたい...、つまり、「つかず離れず」という関係が現在の若者の求めているスタイルなのかもしれません。
だからといって、このスタイルや"いまどきの..."大学生に苦言を呈したいというのではありません。ただ、"club"という言葉に込められた意味について、改めて考えてもらいたいと思います。せっかく、同じような志を持った人々が集まり、新しい出逢いや自身を社会化させたり、成長させたりする機会があるにもかかわらず、それを無駄に逸していないかということを問いたいのです。
素敵なまちには、素敵な住民が集まります。そして、そのまちを構成する住民は文化を醸成し、都市の魅力を高め、歴史を積み重ねます。同様に、素敵なメンバーが集まれば、そのグループは高い成果を上げるだけでなく、そのグループ自身にも魅力が付与されます。魅力的なグループになれば、そこにはまた素敵な人が集い、そこに所属する人たちは、そのグループを誇りに思ったり、より魅力的なグループにするために、さらに積極的に働きかけたりもすることでしょう。これは、クラブや大学にもあてはまります。
"つかず離れず..."といった薄っぺらい関係ではなく、皆さんは、クラブや大学、また仲のいい友達で構成されるグループと、"ガッツリ"かかわってください!時には、ぶつかり合うこともあるかもしれません。ただ、その時に"club"という言葉が持つ意味を思い出してください。集団や組織の目的を達成するために、知恵を出し合い、協力して、より魅力的な集団や組織を築き、素敵な文化を醸成してください。そのような主体的なかかわりがあって初めて、皆さんが所属する集団は、皆さんにとっての居場所となり心の拠り所となることでしょう。
皆さんにとって、この立命館大学そのものが大切な"club"となるように、また皆さん一人ひとりと立命館大学との結びつきや絆を強める心の架け橋となれるように、我々教職員一同、創意工夫を凝らしながら、皆さんを1つの輪に巻き込んでいきたいと思います。
皆さん、ともに手を取り合いましょう!