最近、講演や企業の方々とお話させていただく際、「スポーツをもっと使ってください」とお伝えするようにしています。
その一つのきっかけになったのは、昨年「スポーツマーケティング論」にお招きしたJ2クラブ、ツエーゲン金沢から灰田さちさんが、Jリーグの「『シャレン活動』:社会連携活動」という新しいプロジェクトを紹介してくださったことです。
「ホームタウン活動」の違いは、ホームタウン活動がクラブから地域に対する一方向の活動であることに対して、シャレン活動は各Jクラブが地域のステークホルダーたちとともに地域の課題解決と未来に向けての共通価値を創造することを目的としています。
「Jリーグをつかおう!」というキャッチフレーズを掲げる理由に、サッカーやクラブには社会に貢献できるもっと多様な価値があることを発信しているものと個人的には捉えています。
スポーツチームによる社会貢献活動は、「Corporate social responsibility(CSR)」や「Outreach activities」といったキーワードでスポーツマネジメント領域の研究対象となっています。
また、スポーツチームは企業からスポンサードを受けることでより充実した活動が可能になり、企業側もスポーツを通じた広報活動やCSR活動が可能になります。
企業がCSRやSDG'sに取り組む傍ら、近年注目されているのが、「Creating Shared Value(CSV)」(Porter and Kramer, 2011)です。
日本語では「共有的(共通)価値の創造」と呼ばれています。
Porter and Kramer. 2011は、CSVの特徴を、CSRは企業の評判に注力しており、ビジネスとのかかわりが限られているため、長期的に正当化し維持することが難しい一方で、CSVは、企業の固有の資源と専門性を用いて社会的価値を創造することで経済的価値を創造する(p. 16)と述べています。
簡単にまとめると、CSVは、企業が得意とする本業を用いて社会貢献をする、ビジネス色が濃い取り組みといったことになるでしょう。
企業側の視点に立ち、スポーツマネジメント領域で注目すべきCSVが、リヴァプールFCとパートナーシップ契約を結んだ日本ハム株式会社(英語名:NH FOODS)の事例です。
リヴァプールFCの既存の社会貢献事業の取り組みの一つであるフードバンクに日本ハム株式会社が支援を行うものですが、説明するよりもまず、Forbes Japanに掲載されたインタビュー記事をお読みいただくのが良いでしょう。
リヴァプールFC×日本ハム株式会社の取り組み
前編:https://forbesjapan.com/articles/detail/30459/1/1/1
後編:https://forbesjapan.com/articles/detail/30471
この支援活動が日本ハム株式会社の企業理念の実現に直結していることからも、CSV活動と捉えられますが、注目すべきは企業がリヴァプールFCというスポーツ組織を通じてCSV活動を実施していることです。
企業のCSVの事例一つをとっても、スポーツチームと掛け合わされたとき、その価値や効果は双方の組織とその融合において高まることが期待できるわけですから、スポーツは社会における非常に柔軟なプラットフォームであると言えるでしょう。
昨年末からリヴァプールFCは、世界一に輝き、その後日本人選手が加入するなど、国内でもホットなニュースが続いています。
メディアではいつもアスリートやチームの成績だけにスポットライトが当たりますが、それは時に瞬間の出来事です。
スポーツを使って社会に新しい価値をもたらすことは、時間がかかることですが、その背景には必ずそれを動かす人たちがいます。
リヴァプールFCと日本ハム株式会社はそれを証明する一つの画期的な事例であり、何よりもこのプロジェクト携わっているのはリヴァプールFC側も企業側も日本の方々だということにはとても感銘を受けます。
オトナになって大学院に通い、本学部に着任して2年目を終えようとしています。
その間、多くの学生が「スポーツにかかわりたい」と研究室を訪ねてくれます。
「あなたの言う、スポーツにかかわるとはどういうことなのか、それに対してどう貢献できるのか」という宿題をいつも持って帰ってもらっています。
試合や与えられる情報から感動を受けるだけではなく、スポーツが持つ可能性をもっと探り、スポーツで社会を動かす人になって欲しいと思っています。
まずは私からですね。
ゆ
日本ハムスポーツによるリヴァプールFCのサイトはこちらから https://nh-sports.jp/liverpoolfc/
リヴァプールFCの日本語版公式アカウント(Twitter)はこちらから @LFCJapan
写真はPorter and Kramer (2011) Creating Shared Value, Harvard Business Review, p.1-22.
撮影:ゆ
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#人を動かすスポーツの力
#スポーツを動かす人の力
#"You'll Never Walk Alone"