数見隆生編著『子どもの命は守られたのかー東日本大震災と学校防災の教訓ー』(かもがわ出版、2011/12/20)が「緊急出版」された。数見氏は、現在、日本教育保健学会長を務め、『教育としての学校保健』(青木書店)、『教育保健学の構図』(大修館書店)などによって、地道で「教育的な営み」による健康教育実践・研究をリードして来ている方だ。
私たちが「健康づくり」支援の際に拠り所とする学校保健は、母子保健、産業保健そして老人保健などと連携した国民的・総合的な健康づくりの制度の重要な一環として重要な役割を果たしてきている。学校保健は、学校教育の場での健康づくり支援が主たる任務だ。保健教育と保健管理の二つの柱を軸にして、教育的な営みの中で健康づくりの支援が行われるものだ。しかし、学校であれば当然とも言える「教育的な営み」に大きな揺らぎが生じているのが現状だ。健康づくりでは、「生活習慣化・実践化」が求められる。本来は、地道に「わかって出来る」教育の過程を経ることが重要なのだろうが、ともすると「管理統制」の手法が入り込み易い。そもそも一人一人の人間にとっての「生き方の問題」と関わるのが健康づくりであれば、「自己責任論」も当然のように強調される。そんな状況に対して、一貫して、批判的視点をもって、教育現場での実践に依拠しながら常に鋭く論じて来ているのが数見氏だ。
数見氏は、長年に亘って宮城教育大学で教鞭を取り、多くの養護教諭を教育現場に送り出して来ていた。そうした養護教諭の多くが、今回の被災現場で、処によっては、宛ら「野戦病院」と化した学校で不眠不休で奮闘したのだ。養護教諭自身が被災者であって、家族との連絡もままならないような状況の下でも、避難場所となっている学校において、身を粉にして奮闘していたのだ。そんな「教え子たち」の「安否確認」や「激励」の気持ちに突き動かされて、震災直後から宮城県内を中心に学校回りをした結果として編まれたのが、この書だ。
『子どもの命は守られたのか』は、私たちに改めて大きな課題を投げかけて来た。学校保健が法的根拠とする「学校保健法」が2008年に改訂されて「学校保健安全法」となった。その制度の下で、決定的に「安全」が脅かされ、尊い生命が失われた。多くの養護教諭が学校に殺到する避難者対応そして緊急対応の最前線に身を晒すことになった。そして、震災に際して発生した福島原発事故は、今なお深刻な問題を私たちに突きつけているが、何よりも、いたずらに「想定外」を連発したり、脆くて無責任な「安全神話」を造り出して来たことなどと相俟って、私たちを途轍もないほど「安全文化」崩壊の瀬戸際に追い込んでしまった。
2012年度後期には、担当する「学校保健学」が始まる。こうした問題とどのように「向き合い」、どのように「引き取って」いくのか、私にとっての大きな課題だ。 mm生