世界陸上のベルリン大会で、ウサイン・ボルト選手が記録した驚異的な世界記録に人類が驚かされた。まさに驚異的な100mの記録更新である。記録更新(パフォーマンス向上)の背景には、トレーニング、栄養、研究成果、指導方法、用具・道具、環境(競技トラック、風)などがあげられる。
自らの限界、ならびに人類の限界を超える記録の樹立には、従来にはないトレーニング、チャレンジ、工夫が凝らされていたことであろう。
いずれにしても、人類の限界という壁を押し広げた、ボルト選手の快挙に世界中の人々が歓喜し快哉をあげたことは間違いない。まさに、スポーツの魅力、スポーツの持つ力を示した瞬間でもある。
走るだけなら馬の方が早い。しかしながら、上の図にあるように、100年間馬の記録(ケンタッキーダービー)と人の記録(1マイル走)をみてみると、興味深いことに馬の方はここ50年間伸び悩んでいる。人は未だに記録を更新している。
これはなぜであろうか?馬のトレーニングも進化し、走路、蹄鉄の改良も行われている。大きな違いは、馬は一緒に走っている周りの馬との競走はできるが、自己記録も世界記録もない。言い換えると馬は目標を持たない。一方、人は自己と他者の記録を知り、人は自らの目標を設定して、その実現のためのトレーニングと工夫とチャレンジを積み上げることができる。それゆえに、自己の記録を更新するチャレンジャーに敬意をはらい、その達成をともに喜べるのであろう。スポーツ科学は、そのスポーツ目標の実現に大いにサポートし、貢献できる科学である。まさに「誰かに尻を叩かれるのではなく、自ら尻を叩き目標に邁進する選手」に活用される客観的道具である。
新しい学部・研究科では、実践としてスポーツ科学を利用する、選手のパフォーマンス向上へ適応するために研究する、新しいスポーツ科学を切り開くことを願っている。そして、学生の、日本の、そして人類の限界を押し広げることに貢献したい。
忠