昨日、久々にテレビで野球観戦しました。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)大会の強化試合の1つで、全日本対オーストラリア戦でした。本戦ではないのでゲームは平凡、日本チームの投手陣の力量が相変わらず素晴らしいとの印象でした。
直接野球に関係しない私でも少しの関心を示すように、野球は、我が国で最も普及している(する、観る、関わる・支える、人びとと組織および財政規模からみて)スポーツです。したがって(特に我が国における)スポーツがもっている、良い・悪いところ、進んだ・遅れたところを、過去・現在・先々を通して私たちが考えてみる際には、多くの材料を提供してくれます。
本大会に先立つこと数カ月前、NPB選手会が「日本および日本チームへの収益配分等に関する大会主催者の不公平な取り扱い」に抗議して、第3回大会への不参加を意思表示し、主催者に対する毅然とした交渉をNPBに要求する、という事案がありました。不参加自体に対する賛否は分かれましたが、選手会の提案内容の正当性とNPBの動きの鈍さとに対しては、多くの人々に意見の一致がみられました。
WBCは「野球の世界一を決定する、国別対抗戦」ですが、他競技の世界選手権やワールドカップと決定的に違うのは、国際野球連盟(国際的に競技を統括する団体)が開くのではなく、大リーグ機構(MLB)とMLB選手会が主催している点です。その開催趣旨には「競技の国際的な普及」が謳われて他と同じようですが、普及の現状からみれば「極めていびつ」です。今大会も南・北・中米地域、東アジア地域を中心にオーストラリア・イタリア・スペインを加えて16ヶ国位です。野球競技は、米国の大リーグ機構(MLB)においては成功したビジネスモデルを提供していますが、それ以外特に欧州とアフリカ・中東地域では思うように普及が進んでいません。
MLBのもつ「ミッション」と「ビズネスモデル」とのバランスのとれた思考を背景に、野球ならまだ何とか引き出せる「ジャパン・マネー」を当て込んで、野球を一層普及させたい、というのが現行WBCなのかも知れません。誤解を恐れずに言えば、国際野球連盟(IF)などに任せておくと後者のバランスを失する、ということだと私は理解しています。
再度国内に戻れば、NPBはまさに現在のIFのように映ります。野球に関して世界を統治する最高の機関ですが、野球の文化とビジネスで「産み、育て、育って自立した」巨人によって、その家を思うように牛耳られている姿を想像してしまいます。
この大会に先立ち、発表されている次のニュースも重大事です。それは、プロ野球公式記録配信の危機という、次のことです。〔日本野球機構(NPB)は去る7日、プロ野球公式記録配信システム「BIS」を作動させられないことが判明したため、17、18日の日本代表チーム・侍ジャパンと広島、西武との間で行われる強化試合および23日から始まるオープン戦は記録を配信しないと発表した。3月29日に始まる公式戦から記録を配信するとしている。〕
1988年、大手コンピュータ会社・日本IBMと大手広告代理店・電通の提案により、それまでスコアシートなど紙で管理されていた日本プロ野球の記録を「IBM-BIS」(BISとは、ベースボール・インフォメーション・システムの略)として運用を続けていました。このシステムのデータおよびその配信・運用をビジネスチャンスにしようとするメディア・通信会社のいくつかと他の会社との争奪戦の統御方法を誤ってしまった、ということなのです。要するに、次のデータコントロールの見通しをつけずに、電通等との契約を打ち切る運びになった状態だというのです。
データはまず公式記録によって生み出され、その公式記録はそれまでの野球とこれからの野球をつなぐ意味をもっています。野球をする・みる・支える、のどこからみても指示を受けるモノである必要があります。する、みる、支えるという3つの輪を重ね結びつける環、それが公式記録で、野球文化の要とも言えるものです。
そのデータの管理や運用は、NPBリーグ傘下の球団や選手・コーチ・スタッフの行動の指針でもあり、普及・発展の要でもあります。文化のミッションとビジネスモデルのバランスのとれた思考を提示し、重要コンテンツの一つぐらいにしか考えないメディア・カンパニーのいくつかの議論に任せておくには、余りにもスポーツ関係者のもっている叡智が軽く扱われているな、と私はつくづく感じます。
野球だけでなく、次のことに様々な水準があることは自明です。「スポーツ関係(する、みる、支える)者による、スポーツのための、スポーツの大会」とはいかにあるべきか、すなわちスポーツ大会の「ミッションとビジネス」を見極めるには、スポーツファンの教養のレベルが問われている、ように私には思えます。
【善】