黄金週間の連休中は、この5年間継続して毎年、畑仕事をしています。夏野菜(トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、キャベツなど)の植え付けまでを行います。自宅から歩いて5分位のところに、10坪弱の土地をお百姓さんから借りています。趣味と実益を兼ねるという以上に、専門のお百姓さんやキャリア市民の人たちとの交流が楽しみです。しかも、専門の教育・研究分野に関する良い勉強にもなっています。
農作業をすることが勉強になる、と何をピントの外れたことを言っているのだ、と叱られそうですが、最近この思いをより一層強く抱くようになっています。
私は、運動・動作の学習過程を経て、ゲームやマッチに適応する人びとを支援する指導方法やプログラムの開発に研究の関心をもってきました。新たに一緒に始めた人たちの農作業スキル獲得の過程を見聞きしていると、運動・動作の習得過程や農作業学習過程そのもののリアルな姿を観察することを通して、運動学習の分野に関わる基本的な概念のいくつかを、再び捉え直してみる良い機会に出来ると感じています。
農作業は未来志向的な営みです。
まず、種蒔き用の土床づくり → 種蒔き→ 苗の植え付け、
つぎに、畑の掘り起こし → 苦土石灰等での土壌改良 → 畝立て → 元肥料散布 → マルチ貼り → 蔓用の手・ネットの設置、等々
これらの2つのプロセスを時間差を考慮して進め、ようやく植え付けで苗育てに入ります。
することの要素、手順などは毎年、毎回、同じように現れてきますが、気候などの自然条件や植え付け予定場所などの条件によって、微調整することはもちろん、時には手順を入れ替え・省略したり、繰り返したりします。
(写真は、植え付けまでの下準備工作と使用道具全てです。)
「1ヶ月後、どのような状態にしたいのか」、「今、何故これをやっているのか」等々、私と同じ作業をや
っているなと私が思っていても、逆に、畑の諸先輩からは、その背後にある見方・考え方を問いかけられます。素朴に質問されて一瞬たじろぐ自分を意識することがしばしばです。「ああっ、この動作・作業をしつつ、そんなことを考えていたのか、さすがや!」。反省してより深いことを質問できた時にはさわやかな気持ちになれることも、私がまた、楽しさ、やりがいを感じるひとときです。
スポーツの場面でも、似たようなことがあります。
パスやドリブルなどのボールさばきは同じように見えても、その動作遂行の直前や最中に、「何、そん
なことを考えていたのか・・・!!」と、エキスパートのプレイ場面の振り返りで驚かされることが度々あります。ラケットさばきやショットは同じように見えても、狙っていることは外部から観察されず、テニス・マッチ後のインタビュアーや観察・調査者として、同じ経験をすることもしばしばです。
ところで、運動・動作の学習場面には、①何をするか、②何を覚えるか、③何を考えるかの3つ水準が含まれています。そして実際のゲーム場面での行動は、これらが総合されて、目に見えるプレーとして発現されています。
最初は用具・道具の使い方、これには運動種目、つまり文化の側から個々人に準備するように求める、動作要素や遂行パターンの固定化・安定化が主要な課題です。上記①、②を実際の練習場面で見てみると、「意味づけのあることがら」の反復練習です。①に関しては正確でエラーが少なくなり、リズミカルでスピードアップした動きが出現してきます。②に関しては、手順が習得され、流れるようにスムースな練習項目の展開が見られます。
このような場面では、また、「もっと頭を使え、○○を考えろ!!」という、指導者の叱咤、激励が盛んに飛び交っている光景に出合います。上記③を要求している言動です。
一旦習得された運動・動作はより大きな文化的適応手段の一部に組み込まれて、保持・発展させられます。大学生位になると、「どのような○○(例えばサッカー)をやりたいのか!?」と、よくクラブ・サークルでも話し合っている姿を見かけます。②と①に関して、し残してきたことは多くあるが、現在の記録・成績水準に関係なく、文化活動に接する面白さ、喜びは、やはり③がリードするのだと思います。
運動学習(motor learning, perceptual-motorlerning)という用語は、他の知的領域の学習と比較して筋出力系までを含んだ行為としての特徴を強調する方向に研究関心の主軸があります。なるほど乳幼児期の運動発達や日常運動スキルの獲得では、多くの知見と知識を生み出してきました。
けれどもスポーツが生涯にわたって、さまざまな形で人びとに接近接触の機会を与える文化であるならば、その後のスポーツ活動を行う過程での運動学習の在り方をもっと広く、深く考えなければなりません。むしろ上記③を中心に、②と①の下位要素を準備することを求めていくプログラムの開発がより強く望まれているのではないでしょうか。
【善】