[ 2019年03月 ] の記事一覧

2019.03.01

研究会の話

みなさん、こんばんは。嶋村です。今日から3月になりましたね。僕は花粉症なので、あんまり外には出たくないのですが、そうは言ってもいられないので薬を飲んでなんとかやっています。


さて、今週は共著論文のための研究会をしました。三重大に勤めていた時に同僚だった先生(友達)と僕の3人で論文を書くことになったのですが、そのために研究について話し合いました。京都まで来てもらい2日間に渡って朱雀キャンパスの部屋を借りてしっかり話し合ったわけですが、結果的に非常に実りの多い研究会になりいい論文が書けそうな気がします。


とりあえず3月中に初稿を仕上げようとなったのですが、もう一本論文を頼まれていてそれの締め切りが今月末なので、なかなか忙しくなりそうです。まあ好きなことだからいいんですけどね。


ちなみに三重大の人と書くことになったのは、imposter という文法現象についてです。この単語の意味自体は「氏名(身分)詐称をする人」という意味なのですが、言語学の世界ではこの本来の意味ではなく、文法的には3人称なんだけれど、意味的には1人称や2人称になる名詞表現のことを表します。例えば、My university agrees that your faithful servant’s results support his conclusion (Podobryaev 2017 より引用)という文で、3人称である your failthful servant は実は話者(私)を指しています。この名詞を受けて his とありますが、これも1人称解釈です。なので、主節主語に含まれている My も含めて My = your faithful servant = his = この文の話し手(1人称)になります。この中で your failthful servant みたいなやつを imposter と言います。日本語は実は結構 imposter で溢れていて、「先生の話を聞きなさい」と先生が発話すれば「先生」は「私」ですよね?


日本語はあまり代名詞を積極的に使わない言語で「私(俺)、あなた(君)、彼、彼女」などのような代名詞は省略される傾向があります。例えば、「あ、昨日太郎にあった?」という文ではすでに「君は」という主語がありません。これに答える時、「彼に会ったよ」よりは「会ったよ」の方が自然に聞こえるのではないでしょうか?というわけで、日本語では文脈から判断できる場合代名詞を省略する方が自然なようです。英語ではこのようなことが出来ません。韓国語や中国語では出来ます。イタリア語などのロマンス語系の言語では一部主語が省略可能です。


話を imposter に戻すと上のような英語の文で、imposter が出現するとそれを次に指示する代名詞は必ず3人称でないといけません。なので、My university agrees that your faithful servant’s results support my conclusion とするとダメな文になってしまいます。日本語ではどうでしょうか?上述のように日本語では代名詞を積極的に使わないので「私は今私の論文を書いています」は多少冗長に聞こえますが、まあいいのではないでしょうか?これに対して「先生は今私の論文を書いています」で1人称( imposter としての)「先生」と所有を表す「私(の)」の同一解釈は無理なように感じます。なのでこの点において英語と同じですね。ちなみにこの日本語のデータは僕たち(僕と三重大の先生)の発見であんまり論文を書く前に手の内をこういう公共の場で発信するのもアレなんですが、メイントピックはこれではないし言語学者がこのブログを読んでいるとも思えないので、ネタとして書くことにしました。分析は秘密です(笑)。誰が聞きたいねんって話ですが。。。


というわけでまた来週。