ゴールデンウィーク、皆さん、どのように過ごしたでしょうか?
ゴールデンウィークの最終日は、ご存じの通り、"こどもの日"です。都市部は、マンションが多く、私の幼少時ほど、家に大きな鯉のぼりが掲げられることが少なくなりました。5月5日は、戦後にこどもの日と定められ、国の未来を担う子どもたちの成長を祝う祝日とされてきましたが、もともと"端午の節句"というように、5月5日は、桃の節句の3月3日や七夕の7月7日といった一年に5度ある五節句のうちの1つです。そもそも端午とは、月々の最初の午(うま)の日のことで、午が五(5)に通じることに由来しているそうです。江戸時代の武家社会において、男児が生まれると、合戦の時に使われる家紋入りの幟を家に掲げて周囲に知らしめていたことが、初節句に鯉のぼりを掲げる風習に発展したといわれています。
前置きが長くなりましたが(笑)、国の未来を担う子どもたちは、自分の将来にどのような夢を抱いているのでしょうか?
表に示したものは、毎年、第一生命保険株式会社がゴールデンウィーク頃に発表している「大人になったらなりたいもの(2009年)」の調査結果を示したものです。男の子は、「野球選手」と「サッカー選手」がともに10%を超え、女の子は、「食べ物屋さん」という回答が全体の2割を占め、次いで「保育園・幼稚園の先生」が6.9%となっています。
女の子は、食べ物屋さんや保育園・幼稚園の先生になりたいって、みんな優しい子に育ちそう!男の子は、スポーツ選手を夢見て、スポーツ健康科学部も安泰!そんな簡単にはいきません(笑)。男の子と女の子、この1位と2位の結果は、この10年ほど、ほとんど変わっていません。それどころが、全体の5%以上を示す「なりたいもの」についても大きな変化が見られません。
これは、どのようなことを意味しているのでしょうか?
この調査結果は、第一生命保険株式会社が21年間、継続して実施しているもので、この調査結果に異論やケチをつけるつもりは毛頭ありません(笑)。ただ、これから社会調査などに関心を持ち、卒業論文などで、アンケート調査を実施したいと思っている学生諸君は、データの取り扱いやデータから表現されていること、またその調査結果から何が解釈できるのかについて、頭をひねってほしいと思います。
まず...この数年間、子どもたちの「大人になったらなりたいもの」にほとんど大きな変化が見られないというのは、なぜでしょうか?プロ野球選手やJリーガーたちが、男の子に夢を与えるようなプレイをしているから?子どもたちの夢が大きく繰り広げられないような世知がない世の中だから?
どうでしょう?
子どもたちは、「大人になったらなりたいもの」という情報をどのように収集するのでしょうか?子どもたちの情報源は、大人の我々に比べて限定的であり、その選択肢も限られていることが予想されます。そうすれば、おそらく、テレビ、またお父さんやお母さんの影響が強いことでしょう。このことは、ちょっと難しい言葉で言えば、"社会化"という理論によって説明がつきます。
社会化というのは、簡単に言うと、「あぁなりたいなぁ~」と思ったり、その想いを叶えようとするために行動したりする時に、ある知識や規範、また価値といったものを自分の中に取り込もうとする(内面化する)過程のことを指します。この社会化において、お父さんやお母さん、兄弟姉妹、友達、また集団やマスコミなどが子どもたちに強い影響力をもたらします。この影響力をもたらす存在のことを、"社会化エージェント"と呼びます。お父さんやお母さん、またお兄ちゃん、お姉ちゃん、仲のいい友達がスポーツをしていたら、その周りにいる子どもは、自ずとスポーツをしやすくなるという状況を考えれば、わかりやすいことでしょう。
つまり、子どもたちの情報源は、限定的であるため、子どもたちにとっての「大人になったらなりたいもの」という回答は、目にするテレビや周りの人たちの行動や言動に強く影響を受けるということです。科学技術は、日々進歩していますが、50年間ぐらいのスパンで回答の傾向を捉えない限り、成熟化した現代社会において、10年間ぐらいでは、「大人になったらなりたいもの」の回答はドラスティックな変化を遂げることは現実的には難しいと思われます。ただ、この調査が開始された当初に比べると、男の子において、「刑事・警察官」や「おもちゃ屋さん」という回答が減っています。
気になる点がもう1つ...詳しい調査結果や情報は、第一生命保険会社がホームページで提示しているNews Releaseをみてもらえればと思いますが、どのように調査が行われているのでしょうか?
調査対象者は、全国未就学児(保育園・幼稚園児)及び小学生(1~6年生)と記され、971のサンプルが分析に用いられています。地域を見れば、北は北海道、南は沖縄までの情報が収集されています。しかし、このデータは、日本の子どもたちの声を反映したものになっているのでしょうか?
調査は、第一生命生涯設計デザイナーが各家庭を個別に訪問し、「ぼくのわたしの、すきなもの」をテーマに実施したミニ作文コンクールの応募用紙を配布して、「大人になったらなりたいもの」も併せて記入してもらい、集計された結果です。ただ、第一生命生涯設計デザイナーが訪れた家庭にしか調査が実施されていないことを考えれば、サンプルの抽出方法には、いささか疑問が残ります。つまり、第一生命生涯設計デザイナーが応募用紙を配布しに行かなかった家庭では、調査に回答することができないことが予想されます。またそのミニ作文コンクールに応募しなかった子どもたちの声は、反映されていません。さらに、全国から14万点の応募が寄せられているにもかかわらず、その全部の結果ではなく、971点の内容だけが集計されています。どうでしょうか?
ケチをつけるつもりは毛頭ないといいながら...(笑)
何が伝えたかったかといえば、社会調査という技法を用いて、人々の行動や意見をデータに変換する場合、知識とスキルが必要になるということです。つまり、正しい調査方法と正しい解釈の仕方、それを身につけなければなりません。スポーツ健康科学部の一期生の皆さんは、"Ippo"先生の授業をしっかりと聞いて、社会を見つめるまなざしとそのスキルを学んでください。
最後に...「大人になったらなりたいもの」というテーマでお話しを進めたのは、一期生の皆さんと我々教職員が子どもたちに夢を与えられるような存在になろうということです。人は、人に憧れ、そして導かれます。私自身が、一期生の皆さんの憧れとして、また君たちを導くことができるような存在になるべく、日々、精進したいと思いますが、君たち自身も、子どもたちの憧れとなり、子どもたちを導くような存在となるように、日々、努力してください。
長くなりましたが、最後までおつきあいいただいた方々、感謝です!