今日は、少し私の専門分野からのお話しをしてみたいと思います。
皆さんは、「かわいい」という言葉をどのようにイメージし、共通点を見いだし、認識し、獲得してきたか覚えていますか?例えば、次のような共通点でしょうか。
・小さなものに対して
・淡い色のものに対して
・ふわふわしたものに対して
これって、とても簡単なようで実は非常に難しい作業です。全ての人が同じ感覚を持っているわけでもないのに、なぜかなんとなく「かわいい」の対象に暗黙の了解というか共通の認識があります。私たちがこのなんとなくでしかない共通の認識を受け入れ、時にはそれが自身の感覚とずれていても気にならないのは、私たちがかなりいい加減に言葉を定義し幅を持たせているからです。ほとんどの形容詞に同じことが言えます。デジタル大辞泉では、「かわいい」は次のように定義されています。
1 小さいもの、弱いものなどに心引かれる気持ちをいだくさま。
2 物が小さくできていて、愛らしく見えるさま。
3 無邪気で、憎めない。すれてなく、子供っぽい。
4 かわいそうだ。ふびんである。
では、数字はどうでしょうか。「3」という概念は「3」でしかなく、3つのリンゴを4つと数えることは間違いになります。数字は形容詞とは対照的で、誰もが揺らぎない共通認識が持てるものです。同じく、デジタル大辞泉の定義です。
1 数の名。2の次、4の前の数。みっつ。みつ。
2 3番目。第3。
3 三味線で、三の糸。
「3」はこのようにしか定義のしようがありません。3つのリンゴの「3」は絶対的であり、「3は3である」としか言いようがないわけです。
私たちは、「かわいい」のあいまいさも「3」の絶対も自然と受け入れてきました。言い換えれば、成長の過程でいい加減さ・適当さを身につけてきたからです。しかし、それが非常に難しい人たちがいます。あいまいな言葉を理解することが非常に難しい。「かわいい」を例にとってみます。
【場面A】
うさぎのぬいぐるみを見せ、「かわいいね」という友だち。
「かわいい?」「ただのうさぎじゃないか」→『かわいい=うさぎ』
【場面B】
アイドルの話で盛り上がる数名の友だち。「アイコってかわいいよね!」「分かる!うちも好き!かわいいよね。
「アイドルって人にかわりないよね?」「人ってかわいい?」→『うさぎ=かわいい=アイドル?????』『うさぎ≠アイドル』→『かわいい????????』
毎日のように氾濫する形容詞の理解は年齢が上がっても困難です。そのため、他者の発言から形容詞に対する共通点を少しずつ集めます。「かわいい」=「赤ちゃん」「毛の多い動物」「年下の子」「水玉模様の洋服」「ピンク色」などなど。そして、その言葉の意味がいい意味なのか悪い意味なのかを他者が発する言葉のトーンなどで決めていきます。「かわいい」=とりあえず悪い意味のようではないから「+(プラス)」
これらの作業を通して作られる自分なりの「かわいい」のイメージ=「まるい」「ふわふわ」「もこもこ」→「3」に似ていると考えていいかな?「2」も少し含むのかな?
発達障がいのある人が抱える困難さです。全ての人ではありませんが、多くの発達障がいのある人は、このように「あいまいさ」を理解することが非常に困難です。そのことが対人関係に支障をきたすこともあります。皆さんは、不思議に思われるかもしれませんが、このしんどさを少し理解していただけたらと思います。ずけずけものを言う、その場にそぐわない発言をする、そんな人に出会った時、一呼吸して相手を見ると違った見方ができるかもしれません。