立命館大学では、2002年度に「高大連携推進室」を立ち上げています。主な企画は、高校生に大学の学びを体験してもらう「立命館サマーカレッジ」、特別入試合格者に対する体験入学「プレ・エントランス立命館デー」、WEBを利用した入学前教育、高等学校での出張講義、高等学校の先生方との意見交換を行う「高校・大学教員との懇談会」等々、大学全体でもまた各学部特有の企画としても、さまざまに高大連携の取り組みが行われています。
立命館で最後発のスポーツ健康科学部においても、単にすでに他学部で取り組まれていたからという理由からだけでなく、文理総合(融合)という教学内容の打ち出しからも、高校生や父母、先生方に対する説明努力が要請されることは、発足当初から相当程度意識されていました。学部パンフレットや説明会では、健康運動科学、スポーツ科学、スポーツ教育、スポーツマネジメントの4分野のつながりや背景、カリキュラムやその運営について、教職員が図解や言葉で丁寧に伝えているつもりです。また、
大学が専門分野の教育・研究にすぐ導入しようとしても、中等教育と高等教育の間には相当な乖離が生じ、大学でのカリキュラムや科目あるいは授業運営等々でかなりの改革が必要とされていることは、今では多くの人々が共通に感じています。そして相互理解と改革の活動に乗り出しています。高大連携とはまさにこのことで、何よりも、大学での学びの様子を知らせる情報が正確に高校生や父母、高校の先生方に伝わることが大切だと言えます。
いくつかある中で大きな問題点は、以下の2つだろうと私は感じています。
1つは、入試での受験科目によって「文系」と「理系」が分かれ、受験科目に無いから勉強しない、あるいは不得手だと自分で決めつけている、という状況があることです。スポーツや健康の基底的部分は、人間のカラダと運動です。物体の運動として理解を深めること、そして生物体の組織・器官や細胞体への生理・生化学的理解の基礎を学ぶことは、入学後すべての学生に求められることです。高校生から大学生になる過程で、この準備態(レディネス)への自覚が刺激されることが重要だと思われます。
2つは、スポーツや身体運動は「する」経験を通して多くの人たちに理解されています。行ってきた練習やトレーニングも、指導者の教えも、多くが「エピソード記憶」として語られます。どのような実践も何らかの理論に基づいて行われているのですが、実践者自身がそれをどの程度、自覚あるいは理解しているかは、また別の問題なのです。したがってスポーツや身体運動を「する」ことと「勉強や研究」の対象にすることとの間には、相当の飛躍があると思われます。
特に2つ目の問題に関しては、学部を選択するときにキーポイントになると思います。先の「飛躍」を少しでもスモール・ステップで昇るために、第1歩か2歩を踏み出してもらっていることが肝要です。それはある意味では簡単なことです。「うん、それ面白い、なんでだろう!?」と、触角やアンテナがふっと向きを揺らせるような体験をもつことです。
学部基本棟のインテグレーション・コアに高校生や先生方に来ていただき、豊富に持っている実験や観察の施設・設備・機材を使って、人間のカラダや運動を観察・測定する体験を通して、「うん、それ面白い、なんでだろう!?」と観て、感じて、考えてもらうことが、スポーツ健康学部にとっては最大、最善の高大連携だ、と私は思います。
先週の木曜日は、大阪府初芝立命館高校の体育科2年生の生徒さん(約60名)が参加して、スポーツサイエンスセミナーが開催されていました。学部の大塚光雄先生が
ご自身の陸上競技の経験から、タイム短縮のためにはどの筋肉をどう鍛えれば効果的なのかという研究の過程を平易に話していただきました。
その後パフォーマンス測定室に全員移動、生徒の中の2~3名が被験者となり、筋電図の記録を実時間で大画面に映して、大塚先生が質問を連発。上腕、前腕部に電極を配置したが、投げ動作と竹刀素振り動作とではどう違うか?答えを確かめるために実際やってみよう。「オーツ、」と小さな生徒さん達のどよめき。カラダや運動を対象にして勉強するときの飛躍の第1歩になっていれば、と感じつつ若者の素直なおどろきに十分共感しました。
(写真は、パフォーマンス測定室での筋電図観察の様子)
【善】