文部科学省は22日、2012年度の「全国体力調査」の結果を発表しました。中学2年生と小学5年生とが対象で、2年ぶり4回目、8種目の体力テストと運動習慣に関するアンケート調査を行っています。体力テストの合計点では、中2の男女・小5の男女とも横ばい状態でした。アンケート(複数回答可)では、体育授業を除いて運動やスポーツを「しない」または「ときたまする」と答えた子が、男子では小5(11%)・中2(9%)、女子では小5(22%)・中2(29%)でした。運動しない理由として、中2男子は「疲れる」(40%)、「文化部に所属」(38%)、中2女子では「文化部に所属」(70%)が突出していました。小5では男女ともに、「自信がない」(それぞれ32%、40%)というのが3番目位に大きな「しない理由」となっています。
今回調査の結果が、本調査や他のところで行われているものと比べて新奇な情報を提供しているわけではありません。けれども都道府県別の点数、順位一覧も公表されて、学校体育やスポーツ関係者の一部の人々にとっては、その結果の見かた・取り扱い方に関して思いは悲喜交々でしょう。でもどのような段階の関係者・識者も「身体を動かす楽しさを感じさせ、その大切さを分からせること」が重要との認識を共有されるだろう、と私は思います。
小学校の先生や父母、地域の人々による、多様な実践報告に接する機会は多くありますが、中学校の状況については学校差、地域差、競技種目差、等々が著しいと思われます。学校の状況(指導する先生や外部指導者の存在、顧問体制の整備、生徒の自治力量の継承、施設・設備条件、等々)によって、特別活動のクラブの部員数、活動の質(競技志向の度合い)が大きく異なります。22日付けの朝日新聞には、滋賀県長浜市の西中学の取り組みを紹介していました。同校(記事内容ではバレー部)は、体を動かす楽しさや大切さを分かってもらうために、競技力向上を目指す活動のみでない、趣味・チャレンジ感覚の子(平日のみの一緒の練習、公式戦には出ない)も受け入れるコースをつくっています。文化部でも、呼吸法の訓練や身体づくりトレーニング、あるいはバドミントン等のスポーツ・レクを取り入れているそうです。
高度・専門化した文化の側から子ども達をみれば、素質を早期に発見、好きになるように仕向け、早期に心身諸機能に刺激を加え、「強く、有名」にする「可能性を拡大」することです。このトラックに入る子どもの多くが何処かで、「あこがれのロール・モデル」に出合っていますし、そのことをインタビューで述べているのをしばしば耳にします。しかし一方では、ほとんどの親は、身体は丈夫で、心やさしく、他人と仲良く、責任感強く、「生きいきと楽しく」育って欲しいと願っています。子ども達も「好きでおもしろい」からそこに行くのでしょう。
運動をしない理由の調査結果「疲れる」(40%)の数値の背後にあるものとして、目的と練習・活動内容に1つの選択肢しかなく一方的適応を迫られる、それに逆らう自信も無いし、そのことで悩んでいる知りあいの話から「部活のイメージ」を否定的に形成してしまっている、等々の意識の混在した「何か運動したいけれどもしない」中学生像を私は想像します。
だいぶ以前ですが、中学に行ったら何かやりたい(生徒側)思いと、教科外の特別活動のもっている意義・意味を経験させたい(先生や父母側)願いとを交錯させる試み・工夫が、「クラブ全員入部制」方式として全国で叫ばれました。学校が十分な施設・設備を備えないし、顧問や指導者の準備体制を十分とれる学校はほとんどない状況でした。したがって、これらはやがて下火になっていきました。考えが生きているとしても、それは文化部の異常な膨れ上がりという結果になりました。スポーツが費用(学校の施設・設備、個人的負担)と主体的な努力(教える側、学び実践する側)を必要とする営みですから、これは当然のことであったと思われます。けれども新たな段階で中学生(あるいは中・高一貫教育校)にこのことが価値をもっていることを、先の長浜市西中学校の取り組みは教えていると思われます。
中学校で複数のスポーツを、再度手ほどきを受けて体験する子どもの数は、そう多くありません。日常の体育授業以外で平日、週末あるいは春季や夏季での機会をいかに増やすかの研究・工夫が求められていると思います。何かのクラブに入りたいという欲求で、施設の容量を超過した部員数を抱える文化部のところでも、体験・経験の中身を見直すいい機会だと考えられます。
あらゆる人間的活動の基底的部分は身体活動である、と私はよく言ってきました。音楽活動(声楽や器楽、指揮者さえも)をする人が身体を鍛えることは半ば常識です。演劇する人が発声や演技のために身体を鍛えることも、目には見えない芸術家の日常活動です。専門家による平易な紹介が一番素直に受け入れられるのは、何といっても中学生段階だと私は思います。運動やスポーツについても同様なことが言えます。
早期にかつ過度に身体訓練を施すことが、子どもを「疲れ」させています。新奇な技に取り組み、それを動作習慣化させるときに「反復」は意味をもちますが、意味を理解しないとすぐに飽きがきます。その時に叱責されても無視されても人々は、「賦活減退による疲れ」を感じます。
このようなことがら、すなわち中学生のもつ全ての「気まぐれ」に対応するのは論外ですが、授業以外の運動機会がクラブ活動にあり、そのクラブへの参加方式と内容が一律にならざるを得ない状況にこそ問題がありそうです。
【善】