私が学生に薦める1冊として、谷岡一郎先生がお書きになった「『社会調査』のウソ:リサーチ・リテラシーのすすめ」という本があります。
この本は、少々過激です(笑)。
谷岡先生は、「世の中に蔓延している『社会調査』の過半数はゴミである」と冒頭で述べ、いかにいい加減な方法論で社会調査を実施し、さらにそこから得られた「ゴミ」によって、世の中の現象を説明しようとすることがおろかなのかを痛烈に批判されています。
この本の紹介をするだけでも、今回のブログを書けそうなのですが、本筋と内容が逸れてしまうので、社会調査をベースに卒業論文を書こうとする学生は、必ず一読してほしい1冊です。
ちなみに...
谷岡先生がお書きになった「データはウソをつく」、こちらもおすすめです!
さてさて...本題に戻りますが...
いまからご紹介するデータが「ゴミだ!」なんて、大それたことは言いません。いや言えません(笑)。
文部科学省が毎年実施している総合型地域スポーツクラブの実態調査のデータを用いて、クラブの育成率について、少し考えてみたいと思います。
ちょっと長くなります...まぁ、いつものことなのですが...(笑)。
1961年に制定されたスポーツ振興法の第4章にうたわれているように、我が国のスポーツ振興を方向づけるスポーツ振興基本計画が2000年9月に策定されて、10年の時が経ちました。
2006年9月に一度改訂され、「1.スポーツの振興を通じた子どもの体力の向上方策」「2.地域におけるスポーツ環境の整備充実方策」「3.我が国の国際競技力の総合的な向上方策」といった3つの柱に基づき、これまで我が国のスポーツ振興が進められてきました。
特に、「地域におけるスポーツ環境の整備充実方策」に関しては、できる限り早期に成人の週1回以上のスポーツ実施率を50%に引き上げることが目標に掲げられ、その目標を達成するための具体的な施策として、2010年までに全国の各市町村において少なくとも1つ以上は、総合型地域スポーツクラブを育成するということなどが計画に盛り込まれました。
図1に示したものは、文部科学省が調べた総合型地域スポーツクラブの育成状況をグラフにまとめたものです。
2010年7月現在で、創設済みのクラブ数は全国で2,664に上り、「全ての市町村に少なくとも1つ以上の総合型地域スポーツクラブを育成する」という政策目標に対して、全国1,750市町村のうちの57.0%にあたる998市町村において既にクラブが設立されました。現在、創設準備中を含めると、クラブの育成率は71.4%にまで達しています。
2010年までに全ての市町村に少なくとも1つ以上の総合型クラブを育成する...
創設準備中というのは、totoからの助成金をもらい、遅くとも2年以内には、クラブが創設されるものを含んでいます。
設置率57.0%...
クラブ育成率71.4%...
この数値を見て、どの様な評価をされたでしょうか...
57.0%だから、政策目標が達成できていないじゃん!
育成準備中のクラブを含めたら、目標の7割を超えたから、まぁまぁ...かなぁ...
察しの通り、「57.0%は低い!」や「7割を超えたからまぁまぁ...」というのは、個人の主観によるものであり、これらの数字だけでは、高い!低い...という評価はできません。
図にも示されているとおり、地域間に格差があり、地域間の数値を比較すれば、「○○地方は、○○地方に比べて、育成率が高いなぁ...」という評価はできると思います。
この数値だけでわかる事実はたった1つ...
2010年までに設置率を100%にするという目標に到達しなかったということだけです。
実は、この数値を解釈する上で、もう1つ重要な点があります。
それは、算出された"57.0%と71.4%"という数値の意味です。
この数値を算出した母数は、2010年7月現在の自治体数、1,750です。
???
ちょっと待てよ?と思われた方は、いらっしゃったでしょうか?
そうです、この政策目標が設定されたのは、2000年9月です。
2005年を時限立法とし、合併後の財政支援などが促された平成の大合併といえば、もうおわかりのことだと思います。
2000年の時点で、全国の自治体数は、約3,300ほどありました。それが現在では、1,750とほぼ半減しています。
その様に考えれば、母数が異なる数値で政策評価をすることに、どれほどの意味があるのか...と勘ぐりたくもなってしまいます。
多大な労力と時間を要するため、残念ながら、政策目標を設定した時点と同様の条件で、クラブ設置率や育成率を算出することはできないのですが、この様な状況を考えれば、57.0%や71.4%という数値が一人歩きすることに対して、危惧や疑念がわくことでしょう...。
シビアな政策評価を...
ちなみに...
設置率57.0%という数値は強調されず、クラブ育成率71.4%ばかりが露出しているのもいかがなものかと...
来週は、第2ステージを迎えた総合型クラブ(その2)で、我が国のスポーツ振興政策の柱となった総合型クラブがどれほど成人のスポーツ実施率に貢献しているのかについて、考えてみたいと思います。