5月19日(木)のスポーツ健康科学セミナーⅡのゲストスピーカーに、昨年のサッカーワールドカップ大会の日本代表チームに帯同し、スポーツ医科学の立場から(特に高地対策)からサポートしてチームを支えた杉田正明先生(三重大学教育学部教授)をお迎えした。
ご存じのように、2010年ワールドカップ・南アフリカ大会では、10箇所のスタジアムのうち、半数以上が高地にあるため、高地対策を講じる必要があった。ただし、今回の合宿スケジュールでは、2週間の高地合宿しかとれず、通常3週間は必要とされる高地トレーニングではなく、「高地順化」に焦点をあてたトレーニングを実施した。この高地対策をサッカー日本代表から依頼されたのが杉田先生である。当初はスイスでの高地合宿までであったが、監督・コーチ、選手、スタッフの信頼があつく、大会終了まで帯同することとなった。
このワールドカップ大会の高地対策を任された杉田先生は、事前準備を入念におこない、選手の血液性状のチェック、高地の適応能力のチェック、事前に高地順化のトレーニング(低酸素吸入)など、大会でのコンディショニングを最高にするために、予め行える準備は一つ残らず実施した。そのうえで、スイス合宿、南アフリカの現地へ行ってからは、選手の尿、尿比重を中心にチェックしながら、さらに選手の食欲、動きから総合的にコンディショニングを監督へ報告して監督が客観的に状況把握できるように専門家としてサポートした。
専門家として、今回のサッカー日本代表に帯同したときに心がけたことは、以下の点であった。
・科学者ぶらない
・自分でできることは積極的にやる(荷物運び、掃除など)
・挨拶はきちんとする
・食事は早めに行く(監督/コーチ、選手と挨拶、コミュニケーション)
・選手には馴れ馴れしく近寄らない(一番大事!)
・各スタッフとの円滑なコミュニケーション
・高地対策の専門家としてのプライドを持つ
・自分の体調管理は万全にする(サポートする側がサポートされてはいけない)
・「ほう・れん・そう(報告、連絡、相談)」は大事にする(こまめに行う)
ワールドカップ大会という世界の舞台で、日本代表チームの一員である、ということは、「世界を相手に戦う」という覚悟がいる。勇気、覚悟、本気でサポートする。各スタッフも同様に、この覚悟をもってプロの仕事をした。
「チームワーク」とは、チームメイトを想う気持ち、チームのために身を捧げることができる、仲間を信じる、信じる力、仲間を信じて、自分が今やるべきことをやる。その意味では、今回の日本代表は最高のチームワークを持ったチームといえる。
講演のあとに、学生から「杉田先生のように現場をサポートできるようにするには?」の質問に対して、「現場だけしっていてもダメ。学部・大学院を通じて、基礎研究をしっかり行う。そして現場では、現場の雰囲気を理解し、上手にコミュニケーションできる力が必要」と回答頂いた。
杉田先生、ありがとうございました。
トップのスポーツパフォーマンス発揮には、選手、監督・コーチのみならず、さまざまなサポート体制が必要であるのは言うまでもない。そのような世界最高峰の大会へ出場する選手へ、スポーツ健康科学のしっかりとした理解をもった本学部卒業生が、近い将来、活躍することを期待している。
【忠】