先日、2回生のMさんが研究室に訪ねてきました。小・中学校の教科書のことが質問・相談の中心でしたが、10年間以上テニス競技を行っていると彼女が教えてくれたので、練習の仕方やモチベーションを維持すること等々、逆に私の方が聞き手にまわりました。
どのような競技においてもそうですが、一定レベルに達すると、そこから先、さらに上昇カーブに乗ることは相当骨の折れることがらです。中高のジュニア、シニアのステージでかなりの練習量を積み上げてきた人たちにとっては、尚更のことです。
練習やトレーニングは真面目に、相当量を維持して行っているのにもう一つ伸びきれない、あるいは「マンネリ化を打ち破りたい」、「練習環境を変えたい」、と考えている「学生アスリート」がかなり多くいる、と現在の自分と少々重ね合わせて彼女は感想を述べていました。
「練習環境を変える」ための手っ取り早い方法は、「場所と相手(仲間)」を変えることです。プロの世界では、所属チームの変更やポジション・コンバートなどがしばしば話題に上ります。けれども中高生時代がそうだったように、大学生もクラブ・サークル組織の構成員としてその競技者活動を行っています。だから自分だけが場所と相手を勝手に変えて練習する訳にはいきません。案外このことに関連して、運動クラブ員の悩み・気がかりの第1番手が「人間関係」だ、ということになっているのかもしれません。
練習や訓練という語は、○○に関する「新奇の事態に対処する力量」を準備する過程を指示します。したがって、○○の事態に備え、どのような「課題や狙い」を持つかということが本質的となります。練習の環境を構成している要因は、場所と相手(仲間)だけではありません。早い話が、練習計画を私たちが立てる際に、①何が操作可能か、②それによって、何が変わるのか、③変化の量と方向の予想や予測は?等々、順次に書き出していけば、案外「てこずる問題」です。
①の操作可能なものに関しても、次のことがらが考えられます。
1)練習の量と質
量:回数、頻度
質:課題 →何をするか?(身体的負荷、精神的負荷)(強度、複雑さ)
何を覚えるか?(記憶、保持、転移)
何を考えるのか?(思考、判断)
2)練習のスケジュール
課題(練習項目・内容)とそれらのバリュエーション
負荷と休息の量的組み合わせ
集中・分散の度合い、セッションのスパンと反復回数
「文脈干渉の効果」 一定練習と多様練習
相手、場所を変えれば、この中のいくつかの要因が関連して変化します。逆に同じ場所、相手であっても、練習プログラムの構成要因を操作することによって、新たな練習環境づくりやその更新に意図的に取り組むことが可能です。
先の文脈干渉の効果に関して、技術要素やその変形(例えば、フォアやバックのストローク、ボレー、オーバーヘッド等)の同じものをブロック化して反復練習する(一定練習と呼ばれる)よりも、それらの異なった要素がランダムに出現する反復練習(多様練習と呼ばれる)の方が「新奇の事態に対処する力量」をより一層向上させる、ということが確かめられています。私たちはどうやら運動に慣れてくると、何を考えるのかについて一番意欲と喜びを感じ、学習効果を高める傾向をもつ、と考えられています。
上記のことを仮説としてもち、「1週間の第○日目、同じ場所、同じ打突スキルで、同じ相手コート・エアリアに、同じ回転・ループのボールは打ない」という、練習目標と計画を立てることは可能なのか、と私はその時彼女に質問しました。結論を私がもっているわけではないので、先々に何がしかの答えを出す活動を私もしたいと思います。
授業実践者である教科担当の先生が、実験授業という方法を通じて、同時に学習環境の他の構成要因の働きを検証し、次回の授業プログラムの一部改変を継続的に試みることが行われています。これに倣えば、「練習を変えたい」と積極的に取り組むアスリートは、日々、「実験的実践」を行っていると言えるでしょう。
【善】
